行列(数学)
行列とは、数の表を矩形状に並べたものであり、主に線型代数学において用いられる。行列は、数の計算を簡単に表現することができるため、数学、物理学、工学、統計学などの分野で広く用いられている。
行列の定義
m行n列の行列 A は、横に n 個、縦に m 個の数の表として表される。各要素は aij と表され、i 行 j 列の要素を表す。
A=⎝⎛a11a21⋮am1a12a22⋮am2⋯⋯⋱⋯a1na2n⋮amn⎠⎞
また、m=n の場合、この行列を正方行列と呼ぶ。
A=⎝⎛a11a21⋮an1a12a22⋮an2⋯⋯⋱⋯a1na2n⋮ann⎠⎞
行列の演算
行列には、加減乗除などの演算が定義されている。
加算
同じ大きさの行列 A と B を考えた場合、2つの行列の要素ごとの和をとった行列を A+B で表す。
A=⎝⎛a11a21⋮am1a12a22⋮am2⋯⋯⋱⋯a1na2n⋮amn⎠⎞, B=⎝⎛b11b21⋮bm1b12b22⋮bm2⋯⋯⋱⋯b1nb2n⋮bmn⎠⎞
A+B=⎝⎛a11+b11a21+b21⋮am1+bm1a12+b12a22+b22⋮am2+bm2⋯⋯⋱⋯a1n+b1na2n+b2n⋮amn+bmn⎠⎞
減算
同じ大きさの行列 A と B を考えた場合、2つの行列の要素ごとの差をとった行列を A−B で表す。
A=⎝⎛a11a21⋮am1a12a22⋮am2⋯⋯⋱⋯a1na2n⋮amn⎠⎞, B=⎝⎛b11b21⋮bm1b12b22⋮bm2⋯⋯⋱⋯b1nb2n⋮bmn⎠⎞
A−B=⎝⎛a11−b11a21−b21⋮am1−bm1a12−b12a22−b22⋮am2−bm2⋯⋯⋱⋯a1n−b1na2n−b2n⋮amn−bmn⎠⎞
スカラー倍
スカラー k と行列 A を考えた場合、行列 A のすべての要素に k をかけた行列を kA で表す。
kA=⎝⎛ka11ka21⋮kam1ka12ka22⋮kam2⋯⋯⋱⋯ka1nka2n⋮kamn⎠⎞
行列積
行列 A と B を考えた場合、行列 A の列数が行列 B の行数と等しい場合、以下のように定義される行列 C を AB で表す。
Cij=k=1∑naikbkj
このとき、C の i 行 j 列の要素 cij は、行列 A の i 行と行列 B の j 列の要素の積の総和である。
転置
行列 A を考えた場合、行と列を入れ替えた行列を AT で表す。
A=(a11a21a12a22a13a23)
AT=⎝⎛a11a12a13a21a22a23⎠⎞
逆行列
正方行列 A に対して、行列 A と逆行列 A−1 の積が単位行列 I に等しくなるとき、A は逆行列を持つという。
A−1A=AA−1=I
逆行列の求め方には、ガウス・ジョルダン法や余因子展開法などがある。
行列の応用
行列は、連立方程式や線型変換、最小二乗法などに応用される。
連立方程式
行列を用いると、連立方程式を簡単に解くことができる。以下は、2 次の連立方程式を行列を用いて解く例である。
{x+y=32x−3y=−1
これを行列で表すと、以下のようになる。
(121−3)(xy)=(3−1)
この行列方程式を解くと、以下のようになる。
(xy)=(121−3)−1(3−1)=(21)
線型変換
行列を用いることで、線型変換を表現することができる。以下は、2 次元ベクトルを回転させる行列の例である。
(cosθsinθ−sinθcosθ)(xy)=(xcosθ−ysinθxsinθ+ycosθ)
最小二乗法
行列を用いることで、最小二乗法を解析的に解くことができる。以下は、n 次元のデータをもとに、m 次式で近似する最小二乗法の例である。
yi=a1xi+a2xi2+⋯+amxim+ϵi
この式を行列で表すと、以下のようになる。
⎝⎛11⋮1x1x2⋮xnx12x22⋮xn2⋯⋯⋱⋯x1mx2m⋮xnm⎠⎞⎝⎛a1a2⋮am⎠⎞=⎝⎛y1y2⋮yn⎠⎞+⎝⎛ϵ1ϵ2⋮ϵn⎠⎞
この行列方程式を解くことで、最小二乗法による近似式を求めることができる。
リンク
Matrix[EN]