ベクトル微積分とは、ベクトル値関数に対する微積分を扱う学問のことである。ベクトル値関数とは、多変数関数であり、各自由変数にベクトルを対応させたものである。ベクトル微積分には、ベクトル解析と呼ばれるように、様々な応用がある。
ベクトル微積分においては、スカラー場に対する微積分に似た演算が行われる。例えば、ベクトル値関数 F(x)=(F1(x),F2(x),F3(x)) に対して、微小領域 Δx における微小変化量 ΔF は、次のように定義される。
ΔF=F(x+Δx)−F(x)
ここで、微小領域 Δx は、3つの微小量 Δx1,Δx2,Δx3 を持つ。微小変化量 ΔF は、各自由変数に対する偏微分係数を利用して、次のように近似することができる。
ΔF≈∂x1∂FΔx1+∂x2∂FΔx2+∂x3∂FΔx3
この式は、微小変化量 ΔF を、微小量 Δx1,Δx2,Δx3 の線形結合として近似したものである。この式をベクトル微分と呼び、微分係数 ∂x1∂F,∂x2∂F,∂x3∂F を、それぞれ F1(x) の x1 に対する偏微分、F2(x) の x2 に対する偏微分、F3(x) の x3 に対する偏微分と呼ぶ。
また、ベクトル微積分には、ベクトル解析のための基本的な演算がある。その一例として、勾配、発散、回転がある。
勾配は、スカラー場 ϕ(x) に対して、x における勾配ベクトル ∇ϕ(x) を次のように定義する。
∇ϕ(x)=(∂x1∂ϕ,∂x2∂ϕ,∂x3∂ϕ)
この勾配ベクトルは、スカラー場 ϕ(x) が最も急峻な方向を示す。例えば、等高線状に等高線が引かれたスカラー場 ϕ(x) に対して、等高線が垂直な方向を向くように、勾配ベクトルが指す方向が決まる。
発散は、ベクトル場 F(x) に対して、発散 divF(x) を次のように定義する。
divF(x)=∂x1∂F1+∂x2∂F2+∂x3∂F3
この発散は、ベクトル場 F(x) の各点における「流れ」を表す。例えば、流体力学において、流体の速度場 v(x) の発散は、その点における流体の質量収支を表す。
回転は、ベクトル場 F(x) に対して、回転 rotF(x) を次のように定義する。
rotF(x)=(∂x2∂F3−∂x3∂F2,∂x3∂F1−∂x1∂F3,∂x1∂F2−∂x2∂F1)
この回転は、ベクトル場 F(x) の各点における「渦度」を表す。例えば、流体力学において、流体の速度場 v(x) の回転は、その点における流体の渦度を表す。
以上が、ベクトル微積分における基本的な概念と演算である。これらを応用することで、物理学や工学などの様々な分野で、現象の解析や設計が行われている。
リンク
Vector calculus[EN]