ケイリー・ハミルトンの定理とは、数学における重要な定理の一つであり、行列式を用いた多項式の特別な形の因数分解を与えるものです。具体的には、n次正方行列Aの行列式をp(A)とすると、p(A)はAのn次以下の多項式であるということができます。
この定理は、行列式を用いた線形代数の基本的な性質である行列の固有値や固有ベクトルの存在に関する定理の証明や、微分方程式の特殊解を求める際の方法などに応用されます。
この定理は、ケイリーとハミルトンの2人の数学者によって独立に発見されたが、名称は彼ら2人の名前を合わせたものです。
定理の証明は、Aがn次正方行列であるとき、Aの特性多項式P(λ)=det(λI−A)がAを固有値λiと対応する固有ベクトルviの線型結合として表すことができるということに着目します。
すなわち、P(λ)=∏i=1n(λ−λi)とおくと、以下のようにAを表すことができます。
A=i=1∑nλivivi−1
ここで、vivi−1は単位行列Iに等しいので、Aはλiを根とする多項式p(λ)であることがわかります。すなわち、p(A)=0です。
このように、行列Aの行列式は、Aを根とする多項式であることが示された。また、この定理は、行列Aの固有値を求める際にも応用されます。
2次行列の場合のケーリー・ハミルトンの定理
2次行列の場合、行列Aは次のような形をしています。
A=(acbd)
この行列Aの固有方程式は、次のような2次方程式になります。
P(λ)=(λ−a)(λ−d)−bc=λ2−(a+d)λ+(ad−bc)
ここで、λは固有値を表します。
ケーリー・ハミルトンの定理によれば、行列Aはこの固有方程式を満たすはずです。つまり、次の等式が成立するはずです。
P(A)=A2−(a+d)A+(ad−bc)I=0
ここで、Iは単位行列です。
この等式を確かめるために、行列Aの2乗を計算してみましょう。
A2=(acbd)(acbd)=(a2+bcac+cdab+bdbc+d2)
次に、(a+d)Aを計算します。
(a+d)A=(acbd)(a+d)=(a2+adac+cdab+bdbc+d2)
そして、(ad−bc)Iを計算します。
(ad−bc)I=(ad−bc00ad−bc)
これらの計算結果を用いて、P(A)=A2−(a+d)A+(ad−bc)I を計算してみましょう。
P(A)=(a2+bcac+cdab+bdbc+d2)−(a2+adac+cdab+bdbc+d2)+(ad−bc00ad−bc)=(0000)
計算の結果、P(A)=0が成立しました。これは、2次行列Aがケーリー・ハミルトンの定理を満たすことを示しています。
リンク
Cayley–Hamilton theorem[EN]