概要
ガロア理論(Galois theory)は、代数学の一分野であり、多項式方程式の解の構造を調べるための理論である。フランスの数学者エヴァリスト・ガロア(Évariste Galois)によって19世紀初頭に発展されたこの理論は、特に体の拡大とその対称性に焦点を当てている。
体と体の拡大
**体(field)**とは、加法、乗法、加法の逆元、乗法の逆元が定義され、これらの演算が通常の算術的性質を満たす集合のことを指す。具体的には、有理数体 Q、実数体 R、複素数体 C などがある。
**体の拡大(field extension)**とは、ある体 F の上に新たな元を追加して得られるより大きな体 E のことを指す。記号的には E/F と表す。例えば、Q 上の拡大として、Q(2) や Q(i) などがある。
ガロア群
**ガロア群(Galois group)**は、ある体の拡大に対して、その拡大体の自己同型(体の構造を保つ写像)全体の成す群である。具体的には、拡大体 E のガロア群 Gal(E/F) は、F 上の自己同型 σ:E→E で σ(a)=a となる全ての a∈F を含む。
ガロア理論の基本定理
ガロア理論の基本定理は、ガロア群と体の拡大の間の対応関係を示している。この定理は次のように述べられる:
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対応関係:体の拡大 E/F がガロア拡大であるとき、そのガロア群 Gal(E/F) の部分群と E の中間体 K (F⊆K⊆E)の間に1対1の対応が存在する。
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逆対応:部分群 H⊆Gal(E/F) に対して、不変体 EH は、H のすべての元に固定される E の元全体の集合であり、E の部分体である。
例
例1:有理数体の拡大
有理数体 Q に対して Q(2) という拡大体を考える。この拡大体のガロア群は、Gal(Q(2)/Q)={id,σ} であり、ここで σ は 2 を −2 に写す自己同型である。
例2:分解体
次に、方程式 x3−2=0 の分解体 Q(32,ζ) を考える。ここで、ζ は 1 の原始 3 乗根である。この拡大体のガロア群は、6つの元からなる対称群 S3 に同型である。
応用
ガロア理論は、多項式の解の構造を明らかにするだけでなく、数論や代数幾何学、暗号理論などの広範な分野に応用されている。特に、有理数体上の代数方程式の可解性に関する問題を解決するために重要である。
歴史
ガロア理論は、エヴァリスト・ガロアによって1830年代に発展されたが、彼の死後しばらくは注目されなかった。その後、19世紀後半にガロアの業績が再評価され、現代数学の重要な分野として確立された。
関連項目
- 代数学
- 体の拡大
- ガロア群
- 多項式
- 自己同型
- フィールド
ガロア理論は、数学の基礎を形成する重要な理論の一つであり、多くの数学的発見の鍵となる理論の一部である。